03.死




人の死に顔は、何度見ても…。



「大佐」

呼ばれて振り返ると、中尉が立っていた。
礼服を身に着けたまま、そこにただ立っている。

「どうした、帰って構わない」

子供は、男よりも女の方が精神的に大人だと言う。
なら、大人になると変わるのだろうか?
常に女性の方が理性的かと問われると、安易に肯定は出来ない。

椅子にぐったりと座り込んだままの私を見て、彼女は痛そうな顔をした。
眉根を寄せて、口を閉じて。

そんな顔をしないでくれ。
笑っていたほうが、綺麗だよ。

「本当に、大丈夫ですか」

大丈夫なわけがない。
思考がまとまらずに、何かしていないと自分が壊れてしまいそうで。
そんなのが大丈夫なわけがない。
それでも、片腕をもがれたまま、これから私は走りつづけなくてはいけない。
この違和感に慣れなければいけない。

「ここで、『大丈夫じゃない』と暴れろとでも?」

あいつのいた場所には大きな穴が空き、そこには黒い思いが溢れ出している。
このままじゃ、彼女にまで八つ当たりをしてしまいそうになる。

「いえ、そうではなく。お体の方です。」

昨日から寝もせず、食べもせずにいる私の身体を彼女は心配してくれている。
彼女も同じように働きっぱなしだというのに。
青い顔をしているのは、私よりも彼女の方だ。

「今日は帰れるからな。寝れば大丈夫だ。
君も早く帰って休みたまえ、明日も仕事がある」

椅子を180度回して、外を見る。
空が赤い。
奴の死を悼むかのように、それでいて禍々しく。

靴音は、しない。

「伝言を、…グレイシアさんから…」

その名前に、奴の顔が脳裏をよぎる。
フラッシュバック…。

「『彼は彼の道を貫きました。
貴方は、彼が共に夢見た貴方の道を、どうか突き進んでください』、と。」

何度も何度も聞かされた妻自慢のせいか、彼女の事は詳しく知っている気がする。
玄関を空けたら、エリシアと共に出迎えてくれるという。
料理が得意で、ちょっとした事に気が回る。
泣きそうに辛い時は、何も言わずただ傍でいてくれて…。
いやいや聞いていたのろけ話…なんだ、ちゃんと覚えているじゃないか。
ちゃんと私は聞いていたぞ、ヒューズ。

奴はいた。
いたから、いなくなった時の喪失感がある。
そう、この辛さは奴がいた証拠。
そして、私がここまで来た事が奴がいた証。

だから。

「私は前に進む。
奴のしてきたことを、みすみす無駄になどしないからな。」

もう、泣きなどしない。
そんな時間はどこにもない。

「君は、ついてくるんだろう?」

「私以外に、誰が貴方のお守りが出来るんです?」

聞いた答えは、質問で返された。
私の背中を預けられるのは、彼女だ。
死を恐れている余裕はない。

それでも。

「先に、奴を殺した人物は見つけねばいかんが」



人の死顔は何度見ても、嫌なものだ。
魂の抜け殻。

それよりも、例え鬼の魂を持ち合わせていても、強い眼光を放っていた方がいい。

誰もがあらがえないものはすぐ近くに潜んでいる。
私の傍にも、彼女の傍にも…もちろん、敵の傍にも。






END



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