13.髪




金色の髪が指に絡まる。
すごく柔らかくて、だけど真っ直ぐで。
いつもは三つ編みにしているこの金糸は、ほどいても跡がつかない。

さらりと私の指をすり抜けて、結ぶ事ができないのだ。

「大佐…もういいって。中尉にしてもらうから」

呆れた声が聞こえてくるが、無視する。
都合のいい実験台が来たのだ、こんなトコロでみすみす逃す手はない。

「いいから、もう少し黙っていろ」

中尉の髪とは、また違う触り心地。
違う匂い。
…まぁ、子供とは言え15の男だからな…。

上手い具合におとなしく言う事を聞かない奴の髪を、グイっと引っ張る。

「いでっ!」

「あぁ、悪い」

どうにも加減がつかめない。

昨夜もそうだった。
彼女の髪に指を絡めて。
プライベートでは、ようやく何も言わずに触らせてくれるようになった。
けれども、結ばせてもらえない。
何度言っても、断られる。
粘ると、その分彼女の機嫌は悪くなる。

「自分で結べますので」

そう言って、そのまま口を一文字に結んでしまうのだ。
悔しい。
彼女の中に、自分の入れない領域があると感じると。
とてつもない悔しさがにじみ出てくる。

独占欲が強い。

これでも、自覚はしているつもりだ。
だからこそ、本人に拒まれるのが一番痛い。
彼女に拒まれるのが、一番辛い。

「どうしたんですか、二人して」

ぼーっとしつつも、三つ編みを生み出そうと奮闘していると、後ろからソプラノ。
凛とした、けれど毒のような甘味を含んだ。
魅惑の声。

「中尉!この無能大佐、何とかしてくれない?」

「誰が無能だ!」

私の指に絡まったままの、奴の髪を見て彼女は呆れたように溜息をついた。

「ホントに、そういうところは不器用なんですから」

私と鋼のとの間にその身を滑り込ませて、奴の髪を手櫛で梳く。
細く白い、けれど町の女の手とは違うその指で。

するりと金糸に指を絡めて、簡単に編みこんでいく。
赤いゴムで先を結び、出来上がり。

「さっすが中尉!サンキュー。」

鋼のは出来上がった三つ編みを撫でながら、私に向かって舌を突き出す。
『無能!』と言いた気だ。

「こういうのって、大佐やりなれてると思ったんだけどな」

「そうね」

何だ、『こういうの』って。
しかも、中尉まで何を同意しているんだ。

二人の意味あり気な視線からすると、おそらく女性関係のことだろう。

「解くの専門なものでね」

つっけんどんに言うと、鋼のは不思議そうに首を傾げた。
やっぱりお子さまだな。
ちなみに、中尉はと言うと…冷たい視線が突き刺さる。

「つまり錬金術でいうと、大佐は再構築が出来ないと?」
どんな細かな髪型も『理解』し。
あっという間に『分解』。
どうせそこまでするのなら、責任を持って何もなかったかのように『再構築』してみせろ。
と、どうやらそういう意味らしい。

「痛いところを突いてくるな…」

これが可愛らしい妬きもちなのだとしたら嬉しいが…。
そんな甘い感情じゃないだろう。

「お褒めいただき光栄です」

小さい豆がニヤニヤこっちを見ている。
このくそ。

「練習すれば出来るさ。練習すればね」

そうして舐めるように、彼女を見る。
今は邪魔者が居るから手を触れることは出来ないが。
その麗しいまでの艶めいた髪。
男ばかりの軍内部で見せるには、もったいない。

一瞬、驚いたように彼女の瞳が揺らいだ。
視線を反らして、デスクの上の書類を片付け始める。

「そんな事に熱心になるよりも、仕事をしてください。」

なんだ。
色目を使っていることに、もう気付いたのか。
面白くもない。

それにしても、邪魔だな。鋼の。
さっさと迎えに来ないのか、あの弟は。
こんな豆な兄を置いていって…。
ココは託児所じゃないぞ。

じっと睨みつけていると、睨み返される。
考えていた事が、顔に出ていたのだろう。

「せっかくだ、しばらく私の練習台になって行きたまえ」

「やなこった!中尉にでも頼めよ」

ひょいと立ち上がり、中尉の後ろに回りこむと、彼女をこっちに押し出す。
不意の事に、彼女は数歩よろめき見事私の腕の中へ。

「んじゃ、俺アル探しに行くからさ!」

そのままバタバタと。
何て慌しい奴…。
しかし…

「離して下さい」

この状況は、ありがたい。
腕の中の彼女は、身を硬くしている。
警戒中の猫のようだ。

「あとで、練習させてくれるかな?」

「嫌です」

「鋼のが言ってたじゃないか、上官命令だよ。」

アレでも中尉よりも上だ。
国家錬金術師は少佐並の称号がある。

「命令はされておりません」

「いいじゃないか」

「嫌だと言っているんです」

どれだけ言ったって、残念だが私にはこたえないよ。
私の袖を強く握り締めて、離さないのは君なんだから。
その真っ赤な耳が、私から見えないとでも思っているのか?

強く引き寄せて、耳元に口付ける。



「全て、君に触れるための口実でしかないのだから」






END



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