15.悲




彼女の手首に指を絡めて、強く握り締める。
放す気はない。

普段銃を持ち慣れているその手首は、女性のものというには引き締まっていて。
けれども、やはり細い。

そこから順に視線を上へと上げていくと、まずは二の腕。
次に肩。
鎖骨に絡まるようにして、そのまま首筋へ。
赤い跡が足跡を残していた。

無論、私が先ほど付けたものでしかないが。

そうして、渇いた唇に視線を奪われる。
シャワーから出てきた彼女を、そのままいただいた。
下着の一枚も手にさせることもなく。

「どこにいく?」

「洗面台に」

「嘘だな、帰る気だろう?」

「お分りなら、放してください」

言われ、無言で指に力を入れる。
彼女は眉をしかめた。
その鳶色の視線が、私を絡め取る。

本人は気付いてはいないだろう、魅惑的なその視線。

「昼からの貴方と違って、私は急ぐのですが」

まだ少し甘味を帯びた声は、その擦れ具合が欲情を誘う。
毛先が絡まった金糸は、腕を伸ばすとするりと逃げた。

「泊まっていきたまえ」

「結構です」

即答する口ぶりは、私の意見など決して聞いてはくれないのだ。
命令だといっても、それは覆ることなく…。
自分で決めた事を、簡単に変えるような女じゃない事など百も承知だ。
そんな彼女だから好きだというのも、間違いじゃない。

「ん」

「…はい?」

「おやすみのキスは?」

「は?」

顎を突き出すようにして強請ったら、絶対零度の声音が返った。
半眼で、呆れたように私を睨みつけている。

「さっさと放して下さい」

「キスしてくれたら、放すよ」

こんな真夜中に女性を一人で帰したくなんてない。
けれど、彼女は帰ると言うのだし。
私が送るというと、すっごい顔をして全力で嫌がってくれる。

だから、この辺りがお互いの妥協ライン。
しかし、私の唇をふさいだそれは冷たかった。
彼女の愛銃が、彼女の代わりに口付けをくれていた。

「機嫌が悪いんです、これ以上駄々をこねられるのなら…覚悟は宜しいですね?」

…彼女の眉根に、しっかりと皺が刻まれている。
本気だ。
いったい何が彼女の機嫌を損ねたのかはわからないが。
渋々、その温かい手首を放す。

「私が何かしたか?」

いや、したが。

「お気になさらず」

私からシーツを剥ぎ取って、颯爽とバスルームへ入っていってしまった。
しかし、何故今日に限ってあんなにも機嫌が悪いのか。

きっと彼女はわかっていないのだ。
たったあれだけの言葉に敏感に反応してしまうほど、私が想っていることを。
たった一つのキスがもらえなかっただけで、こんなにも淋しい事を。

素っ気ない態度を取られるだけで、すごく悲しくなるというのに…。






END



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