17.褒




ぱたんと後ろ手に、大佐の執務室の扉を閉じた。
その場に立ち止まってしまい、段々と顔が熱くなっていくのを感じる。
頭のなかは小さなパニックを起こしたまま、まだ少し落ち着かない。
出来上がった書類を握り締める手が、やけに汗ばんでいる。
そのまま座り込んでしまいそうになるのを堪え、出てきたばかりの扉に寄り掛かった。

あぁいうのは、やめてほしい。
嬉しい事は確かだけど…。
心臓に悪くてかなわない。

いまだに鼓動が早くって、十代の少女みたいな反応。
こんなの、私じゃな
あーもう、どうしてあんな無防備な顔で…。



「は?…まさか、アレ全部君が?」

昨日の帰りに山になっていた書類を、仕上げた。
私にとっては、たったそれだけのことだったのだけれど。

彼はすごく驚いたようにして、思わず椅子から立ち上がっていた。

「はい」

だって、仕方なかった。
先日からあちこち走り回っている貴方に、緊急の書類が来たから残業しろだなんて言えなかった。
しかも、私がサインをいれて、とりあえずはそれで済むものがほとんどだったのだから。
昨日の夕方に届いたくせに、期日は明日まで。
今日の昼にはセントラルへ送らないと間に合わなかったのだから。

「すまなかったな、君もココの所残業続きだっただろ?」

「徹夜続きの大佐ほどではありませんので」

まともに家にも帰っていなかったらしく、昨日なんて無精ひげがはっきりと見て取れた。
ようやく昨日、定時で帰れたのだ。

そんな彼を働かせるくらいなら、それくらいの無茶だってする。
実際、徹夜とは言っても明け方4時には何とか片付いて、シャワーを浴び2時間ほど仮眠は取れている。
さしてキツイわけじゃない。
もちろん、キツくないわけじゃないけど。

「あと、今日は少しは外回りは減ると思います。
巡回を強化することにしましたので」

昨日のうちに、ブレダ少尉に話をつけてきた。
彼も二つ返事で引き受けてくれた。
大佐の忙しさは、誰もがわかっていたことだったから。

大佐がぽかんと口を開けたままで、突っ立っている。
自分の知らないうちに、私が勝手に動いたのが気に食わないのだろうか?

「…大佐?」

声をかけて、初めて気付いたように、彼は椅子に腰をおろした。
半分笑っているような顔で、頭をかいている。

「やっぱり、君にはかなわないな…」

ちらりと少しコッチを向いた目は、柔らかい光を灯していた。
上げた顔は、優しい微笑で…。

なんて、無防備な笑み。

「気遣いすまないな、助かったよ。
さすがホークアイ中尉、よくやってくれた」



…どうしよう、困った。
上司として、彼に純粋に褒められて…ここまで嬉しいなんて。
これまでだって、こんなことは確かにあった。
でも、それはサラッと流されるようなもので。

あんなに嬉しそうに微笑まれるなんて…。
あんな褒められ方をするなんて。

何だか、彼がモテるのが今更納得できた気がした。



あぁ、でも、本当にどうしよう。
どうせご飯も食べていないのだろうからと思って、お昼を作ってきたのに。
…顔がまともに見れない…。






END



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