* 棘 *




ちくりと、胸を指す痛み。
つかの間の孤独感。

『ほら、またそうやって…貴方は誰にでも声をかけるから』

後姿だけで、遠くから見ただけで、誰だかわかる背中。
緩くカーブを描く金のその髪に、手をかける。

ちくり。

そうして、笑う背中。
指が髪を持ち上げている。
後姿だけでは、何をしているかなどわからない。

『…筈なのに』

ふと、こっちを振り返る。
予想は外れることなく。
彼の指に絡め取られた女の髪は、その端正な唇に触れている。

ちくり。

目があった。

私の目を見つめたまま…微笑は崩れない。
口許はさらに弧を描く。

『やられた』

見せられた。
無理やりに。

見られた。
あんな表情を。

走って、走って、走って、…逃げれない。
逃げる事なんて出来ない。
止まったら、いけない。
彼の傍にいるから。
止まってはいけない。

「中尉」

ちくり。

目の前には、ニヤニヤと笑う男。



そうして毎日ちくちくと痛む私の胸を、たったそれだけで癒してしまう。
優しさは癒しか。
それとも凶器か。

だから笑わないで。

「妬いた?」

一瞬前とは打って変わった、嬉しそうなそんな顔で。
そして私が口を開けば、今度はふてくされるであろう。
そっちの顔の方がいいかもしれない。

私はチクリと貴方の心を刺しているほうがいい。
その分のケアなんて、いつも勝手に奪われてしまうのだから。





END



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