* まちぼうけ *




ソファの上で愛犬を抱きしめる。
まだ2日しか経っていないというのに。
どれだけ強くブラックハヤテ号を抱きしめても、物足りなさは消えない。

淋しいだなどという言葉は、使わない。
使ったらきっと、負けた気分になってしまうから。

チラリと横目で電話を見ても、何も起こらず。
こちらがどれだけ相手のことを思っていても、相手もそうとは限らない。
そのクセ、私が他の誰かといると、後で決まって不機嫌になる。
手におえない、我侭さ。

だけど。

膝を抱えてあのヒトの帰りを待つなんて、私には合わない。
一人残されるなんて、まっぴら。
そんなことをされて、もし彼が帰ってこなかったら。
この責任は一体誰が取ってくれるのだろう。
絶対嫌。

あのヒトを守りたいのに。
あのヒトの傍にいたいのに。

「中央だからな、すぐに帰ってくるさ」

簡単に言ったきり、帰らない。
連絡もない。
仕事場の電話さえ、鳴らない。

きっと、これは主人を待つ犬の気持ち。

淋しいわけじゃない。
ただ、自分の居場所がないだけ。

ブラックハヤテはとても温かいけれど、私はそれ以上の温もりが欲しかった。
自分でハッキリわかっているだけに、悔しい。
欲しいものが手に入らない辛さ。
望みの叶わない、もどかしさ。

神様に祈る気さえ起こらない、簡単な事。

会いたい。
声が聞きたい。

きっと今なら、抱きしめられてもその胸に頬を摺り寄せる事ができるはず。

この同じ地の上にいる無数の命のうち、たった一つの存在だけが欲しい。
そのヒトの事だけで頭がいっぱいで。
あのヒトの事だけで心もいっぱいで。
切なくなる。
今、電話のベルがなったらいいのに。
あのヒトの声が聞けたらいいのに。



それでもまだ、電話は鳴らない。






END



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