* 何もかも全て *




あの角の先で音がした。
私の片腕の、愛銃の音。

足が思うように動かない。
絡まって、どうにも動きづらい。
それでも、走る。

右手の発火布は装着済みだ。
いつでも相手を蹴散らせる。

もし彼女に指一本触れてみろ。
消し炭も残らないくらいに、丹念に焼いてやる。
生まれてきたことを、後悔するくらいに。

石畳はこういう時、走りにくくて困る。
もっと平らな方が早く駆けつけることができるのに。

右の路地から殺気を感じ、すぐに構える。
目にしたのは、金の髪の女性を人質にこちらに銃を向ける男。

怯まない訳がない。
私の目には、金の髪が焼きついたまま離れない。
彼女の喉元には、鋭利なナイフが押し付けられたままで。

ガゥンッ!!

横から突然頭を打ち抜かれた男は、彼女を開放し倒れた。
金の瞳の彼女は、腰が抜けたらしくその場に座り込んだままだ。
そして、声。

「大丈夫?もう安心していいから」

目を瞑っていてもわかる、『彼女』の声が届いた。
向こう側で被害者の女性に、声をかけている。
辺りを見渡し、私を見つけたようだ。
眉が急激な角度を作っている。

片手を上げ近づくと、案の定彼女は不機嫌だった。

「本部で指揮を取ってらしたのでは?」

何発も聞こえる銃声が気になって、飛び出してきた…とは言えない。
そんな事を素直に告げれば、どんな目で見られるかわかったもんじゃない。

「何、私が出た方が早い」

微笑んでそう言うと、呆れたように溜息が返る。
そう。
いつもの話。

「あれで、最後です。
組織の残りのメンバーは既に少尉達が取り押さえています。」

「ご苦労だった」

腕を伸ばそうにも、今は無理だった。
怪我がないか、確かめたい。
小さな傷でも、見逃しはしない。

彼女も軍人である以上、それは仕方のないことだ。
大きな傷跡だってあるし、生傷も絶えない。
オフィスで済む仕事だけではない。

それは、わかっている。
痛いほどに、理解している。
それでも、軍人としての彼女を私自身が必要としているのもまた事実だ。

「大佐!中尉!」

に何人もの部下が駆けつけ、脅えきった女性を本部に連れて行くのに立たせる。
その金の眼には、まだ脅えの色が残っている。

「中尉、一緒に着いて行け」

彼女はすぐに頷き、女性の肩を抱くようにして本部のテントへ向かった。

目の前の角を曲がる時、中尉と目が合う。
ほんの少しだけ、微笑んだ気がした。
その唇が動く。

『また、あとで』

相手は数段上手だ。
こちらの考えなど、おそらく筒抜けで。
実は一人で空回りしているだけなんじゃないかと思う時さえある。

金の髪の女性と言うだけで、反応してしまうほどに。

けれど。
今更、遅い。



何もかも全て。
彼女が全て。






END



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