* 散歩道 *




天気がいい。
仕事も順調に捗っている。
足元をチョコチョコ付いてくるブラックハヤテ号も可愛い。

以前は軽々と抱き上げることが出来た愛犬は、今ではたくましく成長し軍用犬にも負けず劣らず。
まるで、可愛い部下が増えたみたい。
でも。

歩いていた足を止め、振り返り腰を屈めて、視線を彼に合わせる。
「私は今から大佐と市街視察なの。
フュリー曹長の所で待っていなさい。」
わかった?と聞くと、賢いこの子は小さくワンと返事をし、元来た道を司令部へと引き返していった。
さすが、私の聞き分けの良い子。

広い玄関で腕組みをしたまま壁に保たれていたのは、私の上官。
「すみません、お待たせしました」
私を視界の端に入れた途端外へと歩きだした彼に、早足で追い付く。
遅れたのは五分。
「何かあったのか」
いつもの場所。
彼の左、一歩後。
チラリと視線を寄越してくるが、私は小さなため息を返す。
「大佐が溜めに溜めた書類を一気に片付けたので、その後の事務手続きに時間がかかっただけです」
嫌味を混ぜ込んだ。もちろん、真実でしかないが。

昨日まで、確かに他にもやらなくてはいけない仕事もあった。
けれど、彼の通常業務だけは溜まり続けたのだ。
別段サボったり逃げ出したりしなかったのに、それでも溜まったのだ。
それだけ最近忙しいということ。
だから、スケジュールに組み込まれている『市街視察』は、唯一と言っていいくらいの気休めだった。

ズンズン進む大佐の後を付いて歩く。
黒のコートのポケットに両手を突っ込んで、胸で風を切って歩いている。

半眼で睨むように、私はその背中をまじまじと見つめた。
背は高くなく、けれど肩幅は広く。
骨格もがっちりしていて、その背中が実はすごくたくましいことを知っている。

その腕の中が、私にとってどこよりも心地いい場所。

木漏れ日の当たる道を、二組の軍靴が落ち葉を踏みしめながら進む。
日の翳っているところでは、風が吹くと空気は冷たいが、照っている所だとコートが必要かどうかも怪しい。
道幅のある、まっすぐな道。
強い風が吹くと、彼は目を細めほんの少しふら付くようにして、左による。
風の直撃は、私にまで届かない。
そんな大佐の優しさが嬉しくて、くすっと笑いが零れそうになる。

急の仕事やらで車の数が少なく、今日は大して遠くまで行かないからと、その身ひとつで巡回。
慌てる部下を尻目に歩き出す彼の背は、私が駆け寄るのを待っていた。

何も言わず、後ろをずっとついていく。
たったそれだけ。

少しして、急に止まった大佐の背中に、危なく鼻からぶつかるところだった。
ギリギリで止まってその顔を見上げると、上にあったのは不機嫌そうな顔。

「どうかしましたか?」

何事かと尋ねると、じっと私の方を見たまま。
視線を落としてみると、私の前には突き出されるように彼の腕があった。
手は相変わらずコートのポケットに突っ込んだままだけど。
ひじを張った形で、まるで私の前に差し出されているよう。

…まさか、腕を組めと?

いぶかしむように睨み上げると、その口元が一気にへの字に曲がる。
どうやら図星だったらしい。

「別に」

そして、ふん、と再び歩き出す。
まるで子供みたいに。

誰もいないこんな道で、「別に」もなにもないのに。
溜息の変わりに零れたのは、微笑み。

暖かな木漏れ日の合間を縫うように、腕を伸ばす。
金色にキラキラ輝いているこの光が、きっと私の気持ちを促したのだと自分に言い聞かして。
そう、自分に言い訳をして。

彼のコートのポケットに右手を突っ込む。

「!?」

驚く大佐と視線を合わせないようにして。
白い手袋をしている手に指を絡める。
その手袋が発火布でないことは、承知している。

だから。
そのまま、その手袋を上手い具合に脱がしてやった。

「中尉?」

返事なんてしてやらない。
そうして彼の指は、ゆっくりと私の指に絡みつく。
しっかりと、しっかりと。



誰に分からなくてもいい。
貴方が傍にいて、こんな心地よい木漏れ日の中で散歩。
いつでも銃は抜けるけど。

あと五分だけは、ポケットの中で蜜事を。






END



腕を組む…というか、ポケットの中で手を繋ぐのがやりたかっただけ。
『いま会い』に影響されたのかと思われます。
他愛無い散歩。
【あと五分だけは、ポケットの中で蜜事を。】
っていう最後の一行が凄くお気に入り。
タイトル&イメージはジュディマリの『散歩道』から。

『誰よりも 大切な人 手をつなごう 誇らしく前を見て
 つくられた地図はいらない 私達の 道は続く』

1107 気侭に徒然UP
2005/01/03


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