* 引き千切られた手向けの華  *




(ねぇ、ジャン。私人間になりたかったの)

そういえば、そんな事言ってたよな。

(人間になりたかったのよ…)

ソラリス、君を人間にするためには、俺は俺を裏切らなくちゃならない。

彼女の胸元には、くっきりとウロボロスの入れ墨が刻み込まれていた。

(最後にひとつだけ、わかってほしかったのは、貴方が好きだというのは本当だということ)

俺だって、嘘じゃなかった。

(お互いその気持ちに嘘はなかったわ、あったのは…)

俺たちの間にあった嘘は、それぞれ『相手よりも大切なものがある』ということ。
互いにそれを隠し持ち、互いにそれを見抜けなかった。
たったそれだけ。
俺が人間で、彼女が人造人間だという、秘密とともに。

(そんなに、焔の大佐がいいの?)

あぁ、嫌なヒトだけど。
それでも、あの人に付いていくと、あの人に命を預けると。
自分自身に約束しちまったから。
ごめん、ソラリス。

(愛してるわ、ジャン)

愛してたよ、ソラリス。

(独りで行くのは淋しいわね)

手のかかる大佐がまだ残ってるんだ。
中尉一人に任せとくわけにもいかないし。

(あら、あの中尉さん?妬いちゃうわね)

上司二人の面倒は、俺が見るしかないからな。
悪いけど、独りで行ってくれ。

(ひどいわね、独りで逝けだなんて…だったら、私…)




目覚めたのは、病院の硬いベッドの上。
仮眠室並のベッドに、現代の病院の在り方を思わず訴えてしまいそうになる。

左には、同じく簡素なベッドで死んだように眠る男。
このまま自然死してたとて、誰も気付けんでしょう、コレは。
…まさか、本当に死んじゃいないだろうな?

何だか急に確認せずにはいられなくなって、体を捩って大佐を見ようとすると、腹に痛みが走った。
正しくは、腹の皮が突っ張った。
苦痛を吐き出そうとする唇を噛み締めて、首だけでもう一度大佐を見た。

起きた様子はない。

体を元に戻し、病院着の上着のすそを捲ってみる。
やはり、そこには爛れた皮の突っ張った、酷いやけどの痕がある。
そして、二つの穴のあと。

彼女が俺を指した穴と、それを大佐が塞いでくれた火傷の痕。
どちらも痛い。
肉体的にも、精神的にも。

俺の記憶は、彼女に刺された後薄れていて、ものすごく曖昧だ。
けれど、血まみれの大佐が自分の腹から赤黒い血をドバドバ流しながら、目の前で俺に向けてライターを向けた。
その切羽詰った顔は忘れられない。

後で中尉に聞いた話じゃ、大佐は自分の腹より先に俺の腹を焼いて、穴を塞いでくれたらしい。
大佐自信はいまだに意識が戻らず、ずっと傍に中尉が座っている。
俺の方がヤバかったらしいが、その後で死ぬほど無理をして中尉を助けに行ったこのヒトの方が、結果重症だ。
しかも、倒れても意識を手放す寸前まで俺の心配をしてくれてたとか。

いつもどんな我侭なこのヒトでも、やっぱりこんな男だから。
俺達はついて行くしかないんだ。



だから、ソラリス。
俺が捧げなかったからって、花の代わりに俺の脚を持っていくのはやめてくれ。

俺の脚は、まだ必要なんだ。
大佐の為に、まだ駒でいなけりゃいけないんだよ!
動けなけりゃ、あのヒトの足になれない!
あのヒトの左腕でいられねぇんだっ!!

こんなところで、リタイアなんて。
こんなところで一人置き去りなんて。



手向けの花なら、いくらでも贈るから。
だから…


…どうか、その脚を離してくれ…








END



ガンガン読んで、書きたくなってしまいました。

「寂しくて寂しくてたまらないから
 貴方の脚を私に頂戴」

って感じです。
きっとハボラスは、ロイアイより切ない系。

結ばれなくて。ラストさんはハボを騙してて。
昔の彼女に貰ったライターで彼女を焼くの。
彼女に腹を刺されても。
すっごくすっごく切ないね。萌えるね(黙れ)

1015 気侭に徒然UP
2005/01/04


BACK |  CLOSE  | NEXT