* 七枚目の短冊 *




「リザ、ちょっと…何して…」

「あ、動かないで下さい!」

そうして彼女が満足そうにして笑うと、視界の端に紙切れが揺れた。

「これって…」

「短冊です。去年お話しませんでした?東の国の…」

「あぁ、聞いた。
けれどあれは特定の種類の植物の枝の先に付けるのであって、人の髪の毛にくくり付けるものでは…って、おい!」

リザはすでに2つ目の短冊付けに取り掛かっている。
しかもやたらと楽しそうだ。

「今年はあの笹がないので、代役です。」

「私が?」

「えぇ」

ベッドサイドには、まだ5枚程の短冊が用意されている。
子供の髪飾りのようだ。
「すべてあなたに関する願い事なので。あなたにお願いするのが正しい気がしまして…」

「なら、素直に渡せばいいものを」

「今はダメです」

そう言いながらせわしなく手を動かし、いつの間にやら短冊をすべて私の髪に括り終えたリザは、
バスローブ1枚の私をベッドに押し倒した。
私などと比べたらはるかに細いその指が、するりと黒い髪を滑り行く様は、どこか艶めいていて体に毒だ。

「珍しいな、誘って来るなんて」

すでに私のバスローブの前をはだけにかかる彼女は、私の言葉に一言答えるとすり寄って来た。

「えぇ。」

そのままネコが擦り付くように、腹部に顔を寄せてくる。
不自然な体勢で腕を突っ張り、上半身だけ起こしている為に腹筋が浮き出ていた。
そこに指を滑らせる。

「こら、くすぐったい」

「そうでなくては。
1年間、貴方を思いバリバリ仕事をしてきたんですよ?」

君のは『バリバリ』がききすぎだ。
少しくらい手加減してくれた方がありがたい。

…などと心の中では思えても、声に出すことは叶わない。
何たって無敵の私の副官だ。
将軍の孫だという事がなくても、彼女は無敵だろう。
彼女の褒め称えるべき場所は地位に左右されるような甘っちょろいものではなく、人として内面的なところにある。
もちろん、誰が見ても外面的にも無敵だが。

その彼女が、こういう色事に積極的なのはなんともありがたいこと。
機嫌を損ねる手はない。

「それは認めるよ。その分私だって君にバリバリ仕事をさせられてきたのだから」

「大佐がもっと自主的にデスクワークをこなしてくださるなら、私は何も言いませんが?」

茶色の目が、上からじっと覗き込む。
それは、鷹が獲物を捕らえた目。
そんな可愛い目で見られたら、とりあえずこの場は機嫌を取るしかないだろう。

私は捕食動物なつもりはないが、彼女相手なら捕まってもいい。
私の喉元に喰い付くその一瞬の隙を逃さず、そのまま君を食ってしまおう。

「あー、その話は今は止めてくれ。気が滅入る」

「話をそっちに振ったのは、どっちですか」

「…すまん」

もう少し。

「それで?」

リザはムッと口をへの字に曲げて、横を向く。
そして視線だけ。
ちらりと。

「ご褒美はないんですか?」

あと、ちょっと。

「ご奉仕させていただこうか、レディ?」

「手癖の悪い牽牛は、川の向こう側でいつでもそうやって『ご奉仕』なさってるんじゃないんですか?」

ほら…

「まさか。私は誰にも頭など垂れないよ」

「もちろん、私にも?」

もう…

「もちろん。そんな私が好きだろう?」



届く。

「何を今更」



朝起きると、隣に転がったままの彼女が私の頭の短冊を一つ一つ外しながら読み上げてくれた。

「ひとつ。重役出勤認めるべからず。」

「は?」

「ひとつ。早弁は見つけ次第取り上げることとする。」

「えっと…」

「ひとつ。会議中にらくがきは慎む事。」

「あのー…」

「ひとつ。仕事中の逃亡は、厳重に処罰す。」

「あーーー」

「ひとつ。デートに出かける際は、必ずその日分の仕事をすべて終えていることが条件である」

「リ…」

「ひとつ。セクハラ断固反対!」

「リザちゃ……ん?」

すると彼女はそこまで読み上げて、後の一つはクシャリと潰した。

「ひとつ。仕事中の部下を食事に誘わない。以上!」

ゴミ箱に投げつけるが見事はずれて床に転がる。
慌てる彼女を押しのけて、それを拾う。

リザを振り返ると、彼女は真っ赤になってそっぽ向いていた。

「なぁ、リザ?」

「何も聞きません。何も聞こえません。何も聞き取れません!」

必死で耳をふさぐ彼女も可愛い。

「とりあえず、その願いは全部保留ってことで。私の願いを先に叶えてはくれないか?」

「嫌です」

にべもなく断られた。
決断力の早いのも彼女のいいところ。

その腕を無理やり耳から引き離して、その耳元に音を立てて口付けられるのは、男の腕力の特権、
けれど彼女も鍛えている軍人なので、次に跳ね除けられるのは予想済み。
だから、先に聞いて欲しいその言葉を耳の中へと押し込む。

囁くように。
願いを呟く。


共に、願うものは変わらなかった。


「ずっと、私の副官は君だけだ。」



それは、『愛してる』より強い告白。






END



2005年版、タナバタss。
今年は少々お色気系(笑)
長く見えるけれど、実は行間が空いてるだけ。

2005/07/12 気侭に徒然。UP
2005/11/18


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