* 食っていいモノ 悪いモノ *




面白かった。
その光景は、俺にとってはすこぶる面白かった。

目の前には、わざわざ中央指令部から書類と共に、
報告などをしがてらヒューズ中佐の写真なんかもたんまり押しつけられてきた可哀相な女の子が棒立ちになっていた。
茶色の髪を肩の辺りで切り揃え。
眼鏡を取ったらお約束通り超絶美人になるのかと期待させてくれるような、分厚い黒縁の眼鏡を付けて。
頭の中はパニックだろうと思われる彼女の視線の先は、ウチの上司達に向けられている。
プレイボーイと金髪美人に。

いや、そこで勘違いしないで欲しい。
別段ウチの二人が変な事をしているわけではない。
いつも通りだ。
いつも通りに仕事をしているだけだ。

扉のところで突っ立っている俺たちのところでも、二人の会話はきっちり聞こえて来る。
実状この指令部の司令官代理な大佐の執務室はやたら広いが、壁際に本棚がぎっしりで、窓際にデスクが置いてあって。
真ん中はすっからかんなので、よけいに音を遮断するものがなく聞こえやすい。
向こう側では、大佐がせこせこ仕事をしていて、その回りを中尉が本棚と行ったり来たりしながら処理をしている。

「中尉、今日の正午までの分はこれだけだな?終わったから、事務局に持って行っておいてくれ」
「了解しました。あ、肘の所のコーヒー、ひっくり返しますよ?」
「え?あ゛っ!熱っ!!」
「もう、言わんこっちゃない!上着脱いで、コレで膝ふいてください!」
「……痛ってェ」
「っ!手まで火傷してるんですか!?バカですかっ!!」

とまぁ、いつもの具合にそんなこんなで。
中尉はすぐさま大佐の腕を握り締めて、らしくもない慌ただしさで男子便所へと駆けて行った。
ここから一番近い蛇口がそこだからだ。
数秒後、俺の予想通り男子便所から奇声が聞こえてきた。
すぐに数人のヤロー共が駆け込んで来る。

「ハボック少尉!ホホホホ……ホークアイ中尉がっ!!」
「男子便所に駆け込んで来たんだろ。
気にすんな、あの人は大佐の事しか考えてないから、お前らのモンなんて視界に入ってても認識してねぇよ」

ハニーブロンドの髪の上官は、綺麗なナリしてそれを大切にしていない。
大きな目に、整った顔立ち。
ボンッ・キュッ・ボンッな彼女は更に性格もいい為、憧れどころか恋心をも抱く人間は多数存在する。
が。
例えその数が片手で数えられようとも、犬が三歩歩けば必ずぶち当たる程に軍部内に生息していようとも。
彼女には認識されていない。
彼らは「アメストリス軍人」で「仲間」であるが、決して「男性」だとか「身内」なんかではないのだ。
この俺だって「性別は男」ではあるが、意識するだけの「異性」には入っていない。
その括りにいる人間のブツを、ちょっとばかり見たかもしれない程度で彼女は何も感じないらしい。
そんなことに回してる意識があるのなら、それはすぐにあのバカ大佐に注ぎ込まれる。

「お前ら、その前に無様にこぼれてるソレ、しまえ。」

さっきから既に気付いて、必死にそっぽを向こうと努力している出張人は、可哀相に真っ赤だ。

「あ、あの…」
「ん?あぁ、悪かったな。わざとじゃねぇから、許してやって…」
「…いつも、あぁなんですか…?」
「それか。俺たちは見慣れたからどうともないけど…やっぱ普通の奴には刺激が強いか…」
「見慣れた…って……」
「気にすんな。
書類に退屈した大佐が、逃げ出そうとするのも。
それを見つけた中尉にこってり説教かまされんのも。
間で大佐が中尉にセクハラまがいのコミュニケーションを取ろうとするのも。
怒った中尉が銃弾ぶっ放すのも。
おとなしくサインしてるふりして大佐が落書きしてるのも。
中尉が席を外した途端に逃げ出そうとした大佐が、ブラハに止められたのも。
それを餌づけしようとして中尉に見つかったのも。
全部『いつものこと』だ」

まだ目の前の光景に驚愕している可哀相な彼女に、俺は紳士ぶってウインクなんか飛ばしながら言ってやった。

「シェスカ、知ってたか?
夫婦喧嘩は『狗』だって食っちゃいけねぇんだぜ?」






END



メールしてて生まれた話。
出張話を切り出してもらって、食いつきました。
お題は『夫婦』で。
全然夫婦じゃないかも。
どちらかというと、中尉はおかん?
久しぶりに色気のない話がかけて光栄でした(笑)
ありがとう野々村さん。

ということで、このssは【ソラ】の野々村けいこさんに!
予告通りの返品不可です。
消化不良起こさないでね!(殴)

2005/09/06 気侭に徒然。UP
2005/11/18


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